山梨の賃貸ガレージハウスで実現したEVライフ(後編) —
自宅で充電できる毎日は、こんなに気持ちがいい
山梨の賃貸ガレージに8kWの普通充電器を設置して、半年。走行距離はすでに2000kmを超えましたが、公共の充電器にはほとんど頼っていません。最終回は、自宅充電のある暮らしの実際と、EVならではの楽しさについてお伝えします。
毎朝、満充電から出発できる
自宅に充電器を設置して、まず変わったのは朝でした。
起きたら、満充電になっている。当たり前のようですが、これがEV生活の印象を大きく変えます。エンジン車の場合、出かける前に残量を確認して、足りなければスタンドに寄ります。EVで自宅充電がなければ、その「寄る」が少し手間になります。私のような無計画で朝寝坊の人間ならなおさらです。ところが自宅で充電できると、残量を気にする習慣そのものが薄れていきます。毎朝、必ず満充電から出発できるからです。
EVというと航続距離が気になる、という話になりがちです。ですが実際に暮らしてみると、200kmから250kmは確実に行って帰ってこられるという前提が毎朝担保されているだけで、週末の用事はほとんど片づいてしまいます。山梨を起点に少し足を伸ばして、帰ってきてケーブルを挿す。それだけです。
しかも私のガレージは屋内です。雨に濡れることも、汚れたケーブルを触ることもありません。帰ってきてカチャッと挿すだけという所作の軽さは、実際にやってみないと分かりにくい快適さだと思います。
参考:EVの「航続距離」は?
1kWhあたり21円という経済性
経済性についても、具体的な数字でお伝えしておきます。
私が契約しているのは、電力会社が提供するEVの充電に適した料金プランで、いちばん安い午前1時から5時の時間帯は再エネ賦課金を含めても1kWhあたり21円ほどです。設置した充電器は実効で7kWが出ますから、この最安時間帯の4時間だけでも約28kWh(約588円)、およそ150km分が毎晩入る計算になります。日常的な移動であれば、その日のいちばん安い電力だけで賄えてしまうわけです。
結果として、燃料代はもう1台所有するディーゼル車のおよそ半分で走れています。これは正直、ありがたいところです。
一方、公共の急速充電器に頼った場合を私なりに試算してみます。たとえば、山梨のガレージ最寄りの急速充電器をビジター利用する場合、1分あたり99円の時間課金なので、現実に充電可能な電力量を考えると電気そのもののコストは数倍に膨らみます。EVの経済性は「電気が安いから」ではなく、自宅で、安い時間帯に、まとまった量を入れられるから成り立つのだと感じています。
契約している電力会社のアプリやサイトで、その日ごとの充電量を確認できるのも便利なところです。充電器側にもソフトウェアが入っているので、いつ何kWh入れたかが把握できます。数字が見えると、生活のリズムのほうが自然と整っていきます。
ランニングコストといえば、自動車税も年間2万5000円です。これだけ大きくて重い車なのに、申し訳ないくらいです。
参考:EVにかかる「コスト」は?
公共充電にはほとんど頼らずに不満なし
2月に購入して、半年で2000km余り。キャンプなど積載の多いシーンでは他のディーゼル車に頼っていますが、仕事でもレジャーでも、遠慮なく使っています。
そのうえでお伝えしたいのは、山梨という、必ずしも充電インフラが充実しているとは言えない土地を拠点にしながら、公共の充電器にほとんど頼らずにこれだけ走れている、ということです。近所に充電器がないからとEVをためらっている方がいらっしゃるなら、鍵になるのは自宅の充電設備の充実かもしれません。
もちろん、片道数百kmという遠出をすれば、途中で急速充電を挟むことになります。ですが、それは年に何度あるでしょうか。日常の8割から9割は、自宅で入れた電気だけで完結しています。公共の急速充電器が「使わないと困るもの」から「たまに使う保険」に変わったこと。これが、自宅に充電器を設置したいちばん大きな効果だったように思います。
エンジン音が聞こえないことの豊かさ
ここから少し、実用というより楽しみの話をさせてください。
まず、音楽です。タイカンはボンネット内にエンジンを搭載しないEVならではのパッケージングにより、ボディ前部の空間にも余裕があります。そのため、ドアだけでなく、ダッシュボード中央付近にも大型のスピーカーを配置できます。本当に前から音楽が鳴っているのが分かりますし、音場の広がり方がエンジン車とはずいぶん違います。標準のスピーカーでこれなら、もっといいものに換えたくなってきます。
少々気恥ずかしい話ですが、先日は夜通し車の中で音楽を聴いていました。EVですからエンジンはかかりません。アイドリングの音で近所に気を遣うこともありません。山梨の家は静かな地域ですので、ガレージのなかで音量を上げて過ごしていました。これはエンジン車ではなかなかできない過ごし方です。
山に登るときの車中泊も同じです。早朝に出発するために前夜から駐車場で休むことがありますが、エンジン車でエアコンを効かせるためにエンジンをかけ続けることは許されません。EVなら、静かなまま涼しい空間で過ごせます。もちろん、エアコンは1時間あたり1〜2kWh程度の電力を消費すると言われているので、バッテリーの残量に気を配る必要はありますが。
参考:「V2H」「V2L」とは
EVなりの、走る楽しさ
EVはエモーショナルではない、とよく言われます。エンジン車の名車を愛してきた方ほど、そう感じられるのだと思います。
ですが実際に乗ってみて思うのは、EVにはEVなりの気持ちよさがある、ということです。
たとえばEVは、一般的な前輪駆動車に比べて重量や駆動力の配分が異なり、前だけに重さがかかるということがありません。ステアリングフィールが心地よく、走らせていて清々しいクルマが多いです。
山道では、上り坂で航続可能距離がぐっと減っていくのを見て、少し不安になることもあります。ところが一度登り切ってしまえば、今度は下るほど航続距離が伸びていきます。エネルギーの収支が目に見えるこの感覚は、エンジン車にはなかった面白さです。
田舎道で窓を開けて走れば、虫の声や鳥の声が聞こえてきます。エンジン車にない景色の一体感が楽しめます。
エモーショナルというより、感性に響く、と言ったほうが近いかもしれません。第1回にも書いたとおり、いまどきエンジン車でエンジンを高々と回して走らせられる機会は、そう多くはありません。だとすれば、静かに、しかし確かに気持ちよく走ってくれることの価値は、思っているよりずっと大きいのではないでしょうか。
エンジン車を愛してきた方にこそ、一度、自宅充電のある暮らしを試して、EVを満喫していただきたいと思います。
今回、私がその一歩を踏み出せた背景には、イブニオン株式会社のサポートがありました。充電設備の提案から、既存のガレージや電気設備に合わせた設置方法の検討、契約容量変更に伴う手続き、各社との調整、そして実際の設置まで、ひとつの窓口で進めてもらえたことで、自宅充電の環境を整えることができました。
EVに興味はあっても、「自宅に充電器を付けられるのか」「何から始めればいいのか」と迷う方は少なくないでしょう。そうした疑問やハードルを一つずつ解消し、EV生活を始めるきっかけをつくってくれることも、イブニオン株式会社が果たす役割のひとつだと感じています。
参考:EVをうまく走らせる「コツ」は?
Seiji Tanaka 田中 誠司 PRストラテジスト、ポーリクロム代表取締役、VisionVoice取締役、PARCFERME編集長
自動車雑誌『カーグラフィック』編集長、BMW Japan広報部長、UNIQLOグローバルPRマネジャー等を歴任。1975年生まれ。筑波大学基礎工学類卒業。近著に「奥山清行 デザイン全史」(新潮社)。モノ文化を伝えるマルチメディア「PARCFERME」編集長。2026年、働く人の「声」を経営資産に変えるAIサービス「VisionVoice」創業。